涼しい夜,大学の仲間から借りた「
きみが住む星 (池澤夏樹)」を読んでいました.
美しいErnst Haasの写真と,旅行中の男性が友人(彼女,という設定?)に宛てた手紙形式の文章で構成されていて,本当に美しいのでそのうち,私が一番気に入った「花を踏まない馬」を紹介します.
手紙をありがとう。
昨日、ぼくは馬に乗って、この町の郊外の野原に行った。朝の露に濡れた草の葉がきれいで、そこを馬はゆっくりと歩いていく。しばらく行くうちに、草の間に小さな花が目立つようになった。はじめは緑一色だった原っぱが、次第に花が増えて、やがて地面はすっかり小さな赤や黄色の花でおおわれた。
風に花がゆらゆらと揺れる。それを馬の上から見て進んでゆくうちに、ぼくは馬がちゃんと地面を踏んで歩いていないことに気づいた。足音がしない。宙に浮いているんだ。花があまり綺麗だから、馬はそれを踏むのが嫌で、足を地面につけないように歩いている。そんなことができる馬のことをぼくはすごく尊敬した。
老いて少しだけ寂しそうな顔をした馬だけど、宙を歩くなんて魔法をどこでおぼえたんだろう。広い野原。花々が陽光と風の中で揺れている。馬もぼくもその花の上を進んでゆく。とてもいい気持ちだった。
きみもいればよかったのにと思ったよ。
バイバイ
池澤夏樹 著 「きみが住む星」(文化出版局)より
とってもやさしい文章だと思いませんか?
私たちも,毎日をもっとやさしい気持ちですごしたいですね.
ちなみにこの文章に添えられた写真は,一面,山吹色の花,というものでした.
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